一期一会タクシー

世の中色々な人がいるのはとりわけ深夜における出会いの中で実感したりするわけで、例えばそれが居酒屋で妙に人懐っこく話しかけてくる陽気なおっさんであったり、始発待ちをしているのか路上に座り込んでいる家出風の女の子が突然お金をせびってきたりと、日常ではあまり目の当たりにしないオポチュニティが待ち構えていたりする。


終電を逃して徒歩30分の自宅までの道のりをトボトボ歩いている道中、そんなことを考えていた矢先に後方から思わぬ人に声を掛けられてしまった。


タクシーの運ちゃんである。僕は多少酔っ払ってオーバーリアクション気味に歩いていたにせよ、タクシーを停める素振りは一切起こしていないにもかかわらずである。年は50代前後といったところか。その白髪交じりの中肉中背ちょび髭運転手はかなり困った様子で、あろうことか道を僕に尋ねてこられた。


タクシーの運転手であるならば地理感覚はソレ相応のものを持ち合わせているだろうに、これはいったい何事かと話を聞いてみると、なんとその人は埼玉の奥地、秩父方面からお客さんを乗せて来たはいいけど、全くもってこの周辺の地理がわからないんで困っているんですとのたまった。


ピーンと悪知恵を閃く僕。これはひょっとしたら善人ぶって道を案内しつつ、自分の家の傍までタクシーライドできるんじゃねーの!?


ひどく同情的な“もしよろしければ”的なスタンスを持ってして、この思惑は見事的中する。運ちゃんが知りたかった場所が僕の自宅傍だったりしたのも功を奏した。こんなラッキーなかなかあるもんじゃねーなとほくそ笑みつつタクシーに乗り込む僕。


後部座席では気持ち良さそ〜に眠る秩父くんだりから乗り込んできた乗客が一名。タクシーの運転手が、その客起こさないように静か〜にナビしてねとアイコンタクト。小さくうなずく僕。まさに目と目で通じ合う状態に、何だかその運転手が妙に愛しくなってしまった次第である。


お互いウィンウィンの関係を築け、かつ酔っ払い的にも面白満足げな一夜となり、今夜は実に気持ちよく眠れそうだにゃ〜。