激走! 真冬の日光街道→Go To 宇都宮


“宇都宮でギョーザが食いたい!”


久々に読み返した国井律子さんの『アタシはバイクで旅に出る。』中の一編、宇都宮への旅のくだりに出てくる老舗「みんみん」で出されたギョーザを舌鼓を打ちつつ食べている描写が頭に入ってくるや否や、すぐにそう思い立ってしまっていた。


ほんの30分走っただけでも寒さで体の感覚が麻痺してしまう、バイカーにとっては受難の季節、如月。そんな真冬真っ盛りの時期に自宅から片道2時間は掛かるであろう目的地まで向かうにはソレ相応の覚悟が必要だ。しかし、思い立ってしまったものはしかたがない。幸い今日は晴天で心なしか風も暖かい。なんとかなる、そう自分に言い聞かして僕は愛車SR400に跨るのであった。


環七通りから国道4号線、通称日光街道へと突入。交通量・信号機ともに少なくなり始め、いよいよ走りにも気合が入ってきましたぜアニキ、とアクセルを握る右手にも力が入る。そんな寒さもなんのそのな意気揚々状態で春日部あたりに差し掛かった時、ふと左バックミラーを見ると何やらこれまでと角度が違っている。まあ、気のせいだろうと無視していると、そのハンドル途中に取り付けられたミラーがいきなりグルンと一回転! どうやら走行時の風圧とシングルエンジン特有の振動で、ミラーを止めているネジが緩んでしまったようである。


あいにくロクな準備もせず家を飛び出してきたため、ネジを締めるための六角レンチが手元に無い。というか基本的な工具が何一つ無い。さすがにバイパス片道2車線のこの道でミラー片方だけというのも心許ないので、近くに落ちていた棒切れやなんかでやってみるがどうにもうまくいかない。辺り一帯に広がる枯れ根が残った冬の田んぼの上を吹きすさぶ北風にさらされる中、そんなことをしている内に身体の体温と一緒に先ほどまでの高揚感も一気に冷め切ってきた。へタレの僕は引き返すことを決心した。


西の方角では夕日が沈みかけていた。野島伸司風に言うなれば、夕日が景色を蜜柑色に染め始めていた。そう、出発する時刻が宇都宮に日帰りで行こうとする者にとっては遅すぎたのである。せめて正午には出発していないと、次の日会社がある身では正直しんどかった。


すっかり日も暮れてヘッドライトを点灯し始めたおそらく行楽帰りの東京23区ナンバーの車とともに、元来た道を引き返すアンダードッグ気分の僕。ああ、のんびりするはずだった休日を意味もなく消化しちまったぜべらんめぇと、やさぐれモードで環七通りのとある交差点にて信号待ちをしていると、僕の視界に“ギョーザ”の文字が刻まれた看板が飛び込んできた。起きてからコーヒーしか入れていなかった胃袋が、ここぞとばかりに泣き叫ぶのに身を任せ、迷い無くそのラーメン屋に飛び込んだ。


うまかった! さすがラーメン激戦区の環七通り。サイドメニューのギョーザにも気合いが入っている。腹が減っていたことも相まって、僕の舌も鼓を打っていたに違いない。どーだ宇都宮! 東京のギョーザも捨てたもんじゃないだろ!


そんな負け惜しみを帰路途中にメットの中でひとりごちつつ、目的の半分は達成できたのでとりあえず満足しながら、休日のトータル150km足らずの“小”にも満たないツーリングは終了したのであった。