路上でサンバ

小雨が降る中、傘を持っていなかった僕が若干濡れ鼠状態でテクテク歩いていると、なにやら昨年末嫌というほど耳にした軽快なサンバが耳に飛び込んできた。あまり人気の無い通りで何事かと一瞬戸惑う。すると、20mほど前方のどんより薄暗い路上に黄色い衣装を身にまとった人物が傘も差さずにうつむき加減に佇んでいるのが視認できた。そして、僕とは別の通行人がその人物の横を通り過ぎようとした次の瞬間、先ほどまでダークなオーラを発していた黄色の人が目を疑うほど軽快な動きでサンバを踊りだしたではないか! すでに僕もその人物の10m以内に近付いており、容姿ははっきり確認できていた。そう、あの方を模倣した黄色の着流しにちょんまげヅラボーイであった。住宅街にほど近い飾り気の無い路上では異様な光景だ。


と、ほんの数秒間は思ったのであるが何のことは無い、某大手古本チェーン店の福引キャンペーンの一環で路上パフォーマンスを行っていただけである。その黄色の彼もいかんせん乗り気では無いけども義務感は強いパフォーマーらしく、まばらな通行人が彼の前を通る頃合を見てサンバ。そして、通り過ぎる通行人の後姿を見る度再び肩を落としていた。そんな姿に心打たれた僕は特に購入の意思はなかったがその古本チェーン店に入店。そういう時ほど妙な巡り合わせはあるもので、以前から欲しかった本を発見! そして、購入後福引をするがこれがなんと2等当選!! 景品として貰った500円の割引券を握り締めつつ店を出た後、後方に位置する黄色の彼を振り返り、GJと心の中でつぶやいた。

マツケンサンバII